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最高裁判所大法廷 昭和27年(オ)422号 判決 1955年6月08日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は、上告人らの負担とする。

理由

上告代理人阿保浅次郎の上告理由第一点及び第三点について。

日蓮宗管長深見日円が被上告人田村行泰を正伝寺住職に任命した昭和二三年一二月一五日当時施行されていた宗教法人令(昭和二〇年勅令七一九号)によれば、法人たる仏教宗派は、宗派の規則中に所属寺院に関する事項を記載することを要し(同令二条二項六号)、また法人たる寺院は、寺院の規則中に所属宗派を記載し、その規則は所属宗派の主管者の承認を受けることを要し(同令三条二項三号三項)、さらに寺院が寺院規則の変更等一定の行為をしようとするときは、所属宗派の主管者の承認を受けることを要する(同令六条一一条一二条)等規定されており、宗派も寺院も共に別個の法人ではあるが、宗派はこれに所属する寺院を包括する関係にあつて、一定の事項については寺院を監督することが窺われるので、宗派の規則は宗派に所属する寺院にも適用され、寺院はこれに従う義務があるものといわなければならない。従つて、寺院の檀信徒もまた当該寺院の所属する宗派の規則に服すべきは当然である。

本件において、日蓮宗宗則一八号六条は、「一般寺院の住職が欠けた場合には、代務者があればその代務者が住職候補者一人を選定し干与人及び総代の同意を得て、代務者もなければ干与人が住職候補者一人を選定し総代の同意を得て、住職が欠けた日から九十日以内に管長の承認を申請しなければならない」と規定し、同九条は、「住職が欠けた日から九十日以内に、住職候補者を選定しないときは、管長は宗務所長に事実を調査させた上で住職を任命することができる」と規定しているのであつて、これらの規定からみれば、日蓮宗宗則一八号は、本件正伝寺住職の任命について適用されることが明らかであるから、この点に関する原判決の判断は正当であり、原判決には所論のように争点の判断を遺脱した違法もなく、宗教法人の性質を誤解したところもない。されば、所論の違憲違法はない。

同第二点及び第五点並びに上告人らの上告理由第六点について。

上告人らの主張するところは、自己が徳行を欠くものとして信服することのできない僧侶を住職とし、これから儀式の執行、教義の宣布を受けることとなれば、信仰生活は破壊され、檀信徒の信仰の自由は奪われるので、正伝寺の檀信徒総代の意思を無視して信任できない被上告人田村行泰を同寺の住職に任命したのは、憲法違反であるというに帰する。しかしながら、憲法二〇条が同一九条と相まつて保障する信教の自由は、何人も自己の欲するところに従い、特定の宗教を信じ又は信じない自由を有し、この自由は国家その他の権力によつて不当に侵されないということであつて、本件の場合のように管長が宗則に従つて住職を任命したことを所論の理由で排除し得る権能までをも檀信徒に与えたものと解することはできない。されば、原判決の判断は結局正当であつて所論の違憲はない。

上告代理人阿保浅次郎及び上告人らのその他の上告理由は、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克)

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